ソフトウェアビジネスとは何か?

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本稿ではソフトウェア業界について概説をしたいと思う。就職を考える学生や、他業界人の参考になれば幸いである。業界人であっても、クスマノの著書を読んでいない方には参考になる記述もあるかと思う。


ソフトウェアビジネスには、大きく分けて製品企業とサービス提供企業の二種類が存在する。

製品企業は、先行投資を行ってソフトウェアを開発し、それを販売したり、ウェブサービス等として提供することで利益を得る。旧世代でいうとマイクロソフトが代表である。最近ではGoogleやEbayなどインターネット上で製品を提供する企業が多い。

サービス提供企業は、プログラミングやコンサルティングなどの人的サービスを他企業に提供して利益を得る。いわゆる受託開発、SIや人材派遣などの事業である。各国に、政府需要や大企業の需要を満たすNTTデータのような巨大企業が存在し、また小規模だが存在感を発揮するThought Works社や永和システムのような企業がある。

サービス提供企業として最も多いのは、数人や一人で事業を行う小規模な企業である。サービス提供企業では、腕に自信のある技術者や営業が独立して事業を始めることが容易であり、無数の小企業や自営業者がいる。

日本では、製品企業として世界的な成功を収めているのは任天堂やソニーなどのゲーム用コンピュータ企業や、一部のゲームソフト企業である。国内的な成功でいうと、弥生を代表とする数多くの会計ソフト企業や、サイボウズなどの企業向けソフトウェアの企業が大きな成功を収めている。


マイケル・クスマノは、ソフトウエア企業の競争戦略 [1]という著書の中で、ソフトウェア製品企業を成功させることは難しいが、成功すれば高い利益率を得られると書いた。また、製品企業は時が経つにつれて、徐々にサービス売上が増大していき、最終的にはサービス企業に転換する、と示唆した。

また、製品企業の中にも、独SAPのように製品をベースとして多くのカスタマイズ作業を行い、サービス売上の比率が大きい「ハイブリッド企業」があると述べた。ハイブリッド企業では、製品による高い利益率と、サービス提供による大きい売上をミックスして柔軟な企業経営を行うことができる。

製品の売り上げは最終的にどこかの時点で頭打ちになってしまうため、そこからはIBMのようにサービスを主体として事業拡張をしていく必要性が生じてくる。

コンピュータハードウェアの世界ではあるが、Sunは製品販売に固執したため成長機会を見失い、Oracleに買収された。Sunの製品販売事業の売上は、富士通のサーバ製品販売と同じ程度の規模である。だが、富士通のサービス部門は、Sunに比べて5.18倍の売上を確保している。[2]


製品企業を立ち上げるためには、しばらくサービス提供事業を行って資金を獲得しようとする人も多くいる。

しかし、サービス提供企業に要求される職能と、製品企業に必要な職能は、大きく異なっており、それを転換したり並行して行うことは困難である。サービス企業では、多くの人員を少数の法人顧客に提供して利益を得る、それにたいして製品企業では少数の製品を多くの顧客に販売して利益を得る。

すなわちサービス提供企業では、多数の開発人員による開発力が最も重要なファクターであるが、製品企業では、顧客のニーズがある良い製品を開発して多数に販売するためのマーケティング力やソフトウェアの質に力点が置かれる。

製品企業が、高い利益率や多数の顧客ベースを背景にサービスへ進出することは容易であっても、サービス企業の利益率は低く、少数顧客に依存した利益無き繁忙の状態から、うまく製品企業へ移行できたケースは少ない。


ソフトウェア製品は、大きく分けて、システムソフトウェア(OSやデータベースなど)、アプリケーションソフトウェア(企業向けソフトや、家庭向けソフト製品)の二つに分けられる。

システムソフトウェアの業界では、アメリカが圧倒的な強みを持っており、世界の市場をほぼ独占している。次世代のシステムソフトウェアや基本的アプリケーションは、インストール製品ではなく、Googleのようなインターネット企業になっていくと考えられるが、そこでも米国以外の企業で強みのある企業は少数である。

これはシステムソフトウェア企業の成功には、極めて高い技術力、投資に裏付けされた豊富な資金力、世界標準を作る力、高度な経営人材などが必要とされるが、それらの供給がすべて米国西海岸に偏在しているためであると考えられる。

アプリケーションソフトウェアは、各国の言語や文化や法規制などに適した製品である必要があり、各国ごとにソフトウェア企業が存在する。Lotus NotesやSAPのように世界中で販売される製品がある一方、サイボウズや勘定奉行のように我が国だけで販売されて高い人気を誇る製品も数多くある。アプリケーションソフトを世界で販売するには壁がある。

その中で、一部のゲームソフトは文化の壁を越えやすい傾向があり、日本製だが世界的に人気があり流通している製品も多くある。


このようにソフトウェア業界、IT業界といっても、多くの分野があり、これらを一括りにして論ずることはできない。日本の技術雑誌やブログでも、おおざっぱな床屋論壇ではなく、専門書やサーベイに基づいた精緻な議論をしていく必要があるだろう。

また学生が就職などをする場合は、企業ごとの特性や財務諸表をよく見て検討することが望ましい。


注:
[1] ソフトウエア企業の競争戦略 、マイケル・クスマノ
[2] 2008年度、Sunの製品売上は$8,618Mでサービスは$5,262Mであった。富士通のサーバ製品販売額は6,493億円でサービスは24,277億円であった。1ドルを89円とすると、富士通のサービス販売額はSunの5.18倍である。

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このページは、Shunichi Araiが2010年1月29日 10:07に書いたブログ記事です。

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